待機室で、バリー・マニロウ氏の名曲「コパカバーナ」が流れていた。

この曲は軽快な曲調とは裏腹に、バーで踊り子をしていた美しい若い女性がある日の事件をきっかけに恋人を失い、時を経て酒に溺れディスコと化した元職場で呆然としているという悲しい物語が歌われている。

私は学生時代に吹奏楽部に所属しており、この曲の吹奏楽アレンジを演奏したことがある。

珍しく担当楽器に少し見せ場があったことから、とても張り切って練習し、この曲の詳細もたくさん勉強していた。

演奏会が近づいていたある日、楽曲披露前に解説を担当していた先輩がリハーサル時にバリー・マニロウ氏を「ブラジルの歌手」と紹介しており、誤りに気付いた私は練習後に先輩に正しい情報を伝えた。

私「先輩、バリー・マニロウはアメリカの歌手です」
先輩「ああ、うん」

この時点で嫌な予感はしたが、きっと演奏会の日までには訂正してくれるだろうと思い、以降私は先輩に進言しなかった。

そして迎えた演奏会当日。

ステージの端に立ち、解説を始める先輩。

私は祈った。

(バリー・マニロウはアメリカの歌手、バリー・マニロウはアメリカの歌手…)

(先輩、お願いします…)

先輩「ブラジルの歌手、バリー・マニロウが…」

ああああああああああああああああああああ
違ううううううううううううううううううう！！！！！！！！！！！！！！！

膝に楽器が乗っていなければ危うく崩れ落ちるところだった。

10年ほどの時が経ち、いま思うことは私の伝え方がよくなかったということだ。

先輩はコパカバーナ以外にも多くの楽曲の解説を担当しており、「バリー・マニロウはアメリカの歌手」とだけ言われてもなんのことかということまでは伝わりにくかっただろう。

当然演奏もするうえ、パートをまとめる立場にあったため、頭に入れなければいけない情報も多々あったはずなのだ。

私は
「コパカバーナの解説で歌手のバリー・マニロウを『ブラジルの歌手』と紹介されていますが、正しくはアメリカの歌手なので変えた方がいいと思います」
と伝えるべきだったのだ。

私の伝え方ひとつで結果は変わったかもしれない。

報告は詳細をもって行うべきである。


この日記を書いている現在は「君の瞳に恋してる」が流れている。

フルートを担当していた先輩の華麗なソロを思い出しながら、あの日の失態を恥じている。